今年から、私も中等部に通うことになる。・・・・・・ううん、違う。今年から、私はようやく中等部に通えるようになる、だ。
本当は、私だって4年前、中等部に行きたかった。そうじゃなくても、せめて3年前か2年前、その頃だったら・・・・・・。
って、そんなこと考えても仕方がないもんね。それより、少しでも子供っぽく見えないように、頑張っていかなくちゃ。



「今日から、この部のマネージャーをさせていただく、1年のです。宜しくお願いします!」



そして、部活動。念願の男子テニス部マネージャーに入れたのだから、こっちも一生懸命やっていこう。
この部は、かなりの強豪で、人気がある。だから、部員数がすごく多くて、その分、マネージャーの仕事も大変になる。でも、マネージャーの方でも人気が高い。
その理由は・・・・・・、簡単に言うと、部員目当て。スポーツが上手いからそう見えるのか、単に人数が多くて確率的にそういう人が集まりやすいのか、あるいは、本当にそうなのかはわからないけど。とにかく、この部はカッコイイと言われる人たちが多い。だから、少しでも近付きたいと思って、マネージャーになろうと思う人もいるみたい。
その気持ちはよくわかる。よくわかるけど、それだけでやっていけるほど簡単じゃないから、マネージャー希望は入部テストみたいなものがある。それに受からなかったら、マネージャーにはなれない。

これが結構難関らしく、毎年マネージャーになれる人は滅多に出ないみたい。だから、せっかく受かることのできた私は、精一杯頑張らなくちゃ。
と言うか、私は頑張るためにここに来た。頑張ることで、ある人に認めてほしいから。
そう、何を隠そう、私も部員目当て。でも、この部の人じゃない。と言うより、正確には“もう”この部の人じゃない。



「榊監督。練習試合に関して、提案があります。」

「言ってみろ。」

「はい。同じ氷帝学園の高等部のテニス部と対戦する、というのはいかがでしょう?私たちが高等部の方々から学べるのはもちろんのこと、高等部の方々にも私たちの実力を知っていただければ、下からの良いプレッシャーを与えられるのではないでしょうか。」

「・・・・・・なるほど。」

「もし良ければ、榊監督から連絡していただき、後ほど私たち部員の誰かが挨拶に伺おうと思います。」

「そうだな。私から頼んでみよう。その後の挨拶は・・・・・・、お前に行ってもらう。」

「はい、わかりました。その際、私と部長の二人で行った方がよろしいでしょうか?」

「いや。一人で構わない。」

「わかりました。私のような者の提案を聞いていただき、ありがとうございます。」



今、その人は・・・・・・高等部のテニス部員。だから、私は何かと高等部へ行こうとする。



「お姉ちゃん。高等部のテニス部は、水曜日も部活やってる?」

「うん、やってるよ。」

「じゃあ、中等部の方はお休みだから、そっち手伝いに行っちゃダメかな?あ、もちろん邪魔なら、見学だけでもいいんだけど!」

「・・・・・・。邪魔になんてならないって。別に、高等部だろうと、マネージャーの仕事内容はほとんど変わらないもん。今度、景吾に聞いておこうか?」

「いいの?!」

「いいに決まってるじゃない。だって、私からすれば、マネージャーの仕事が減って楽だし。」

「ありがとう!」



私のお姉ちゃんは今、高等部3年生で男子テニス部のマネージャー。中等部のときからマネージャーをやっていて、部員からの信頼もある。だから、仕事が減って楽、なんてことは本気で言ってるわけじゃないと思う。きっと、私のことを思って言ってくれてるんだろう。
そんな優しいお姉ちゃんに憧れるのは当然だけど、私が認めてほしいと思っている相手ではない。だって、お姉ちゃんが妹の私を認めてないわけないもんね!
本当に認めてほしいのは・・・・・・。



「ここが高等部かー。」



お姉ちゃんが跡部先輩から許可を貰ってくれて、私は早速高等部へ向かった。・・・・・・そうだ。今度の練習試合に関しての挨拶も済ませておこう。そっちの方も、榊監督から頼んでいただいたみたいだし。
跡部先輩もすごい人だけど、認めてほしいというわけじゃない。もちろん、認めてもらえれば、それはそれで嬉しいけど!でも、そういうことじゃない。私が認めてほしいと思っている人は、つまり・・・・・・、好きな人ってことだ。



「おい、お前。」

「え、はい・・・・・・って、日吉先輩?!!!」

「やはりお前か、先輩の妹は。」

「あ、はい!の妹で、中等部1年のです!」

「そうか。・・・・・・俺は高等部2年、日吉若だ。」

「はい、存じております。」

「そうみたいだな。さっき、俺の名前を呼んでいたし。」

「そ、そうですね・・・・・・。すみません、大声で呼んでしまって。」

「別に構わない。俺の方こそ突然声をかけて悪かった。」

「いえ!とんでもございません!!」



まさか、高等部に着いて1番に、その人に会えるとは・・・・・・。



「とにかく、早くコートへ向かうぞ。」

「案内していただけるんですか?!」

「あぁ。部活に行こうとしたら、途中で先輩に会って、妹を迎えに行ってくれと頼まれたんだ。テニスコートの場所までは知らないだろう?」

「助かります!」

「いや。先輩じゃなくて悪かったな。先輩は部の準備があるようだから。」

「そんな、こちらこそ!わざわざ、ありがとうございます!!」



たぶん、偶然なんかじゃない。お姉ちゃんがわざとそうしてくれたに違いない。お姉ちゃんは、私の気持ちを知ってるから。

そもそも、日吉先輩と出会ったのも、当然だけど、お姉ちゃんのおかげ。お姉ちゃんの部活を見に行って、そこで日吉先輩を知った。
最初は、ただカッコイイなぁ、とだけ思っていた。その後、少し喋ってみると・・・・・・、クールな人だなって思った。本当は、それが少し怖かった。でも、何度か見かけたり、話したりしている内に、冷たい人ではないってことがわかった。それに、私が幼かったからか、私には結構優しく接してくれていることもわかった。その特別扱いみたいなのがすごく嬉しくて、だんだん日吉先輩のことを好きになっていった。

でも、今は少し違う。たしかに嬉しいけれど、結局それは子供扱いされているだけだということに気が付いたから。今も、日吉先輩の口調はすごく優しい。むしろ、前にも増して、柔らかい気がする。・・・・・・もしかしたら、先輩も高校生になって、少し性格が変わっただけなのかもしれないけれど、たぶん私に対する優しさは、やっぱり年下だから、なんだと思う。



「中等部の方にも何回か来たこと、あったよな?」

「あ、はい!覚えていてくださったんですか?」

「そりゃ、お前は小さかったら、はっきりとは覚えてないのかもしれないが、俺たちは中学生だったんだぞ?さすがに覚えている。」

「私だって、ちゃんと覚えてますよ!小さかったって言うほど、小さくなかったですし!」

「いや、小さかったな。今日、久々に会って、少しわからなかったくらいだ。」

「・・・・・・。」

「大きくなったな。・・・・・・こんなことを言うと、年寄りくさいが。」



日吉先輩は少し微笑んで、そう言った。
やっぱり、これは子供扱いだ。だけど、「大きくなった」ってことは、ちょっとぐらいは成長したと思われてる感じもするから、喜んでしまいそうになる。・・・・・・と言うか、何より日吉先輩の笑顔を見て、嬉しくならないわけがない。
ズルイです、先輩。



「それにしても、どうして今まで高等部の方には来なかったんだ?」

「え・・・・・・。」

「特に理由は無かったのか?」



私が少し動揺したのを見て、日吉先輩は聞き直した。・・・・・・でも、無いわけじゃない。
最初、中等部の方へ見に行っていたのは、当然ながらお姉ちゃんがいるから、だ。だけど、日吉先輩を好きになってからは、日吉先輩がいるから、という目的も加わった。だからこそ、お姉ちゃんが高等部に進んで、日吉先輩が中等部の3年生になったとき、私はどうすればいいか、わからなくなった。普通なら高等部の方を見に行くべきだったんだろうけど、中等部だって見に行きたかったんだもん。
そして、日吉先輩も高等部に進んで、ようやく見に行ける!と思ったけど。どうして、去年来なかったのに、今年急に来るようになった?なんて、誰かに思われたりしたら、私の目的がバレちゃうかもしれない。そう考えて、どうせなら・・・・・・ともう1年我慢することにした。
そんな理由があるけど、まさか日吉先輩に聞かれるとは思ってもみなかったから、少し驚いた。それに、この説明をそのままするわけにもいかないし・・・・・・。



「いえ・・・・・・。姉が高等部に進み、私も少し成長した頃、皆さんにご迷惑をお掛けしてるんじゃないか、って気付いたんです。それで、自分も中等部に行くまでは我慢しようと考えたんです。ですから、今日はただ見に来ただけではなく、マネージャーとしてお手伝いをさせていただくつもりですので、少しぐらいはお役に立てるのではないかと思います。」



意外にさらっと言えたのは、実は、既に考えていた理由だから。と言うか、これは“もう1年我慢することにした”の理由。でも、ちゃんと筋は通ってるよね?



「そんなこと、気にする必要は無かったと思うぞ。誰もお前のことを迷惑だなんて思ってねぇだろうからな。」

「そ、そうでしょうか・・・・・・。」

「少なくとも、俺は・・・・・・迷惑に思ったことなど無い。」



・・・・・・どうしよう。大はしゃぎしたくなるぐらい、すごく嬉しい。それと同時に、やっぱり日吉先輩のことが大好きだ、って気持ちが大きくなった。
そんな会話をしていたら、テニスコートまでやって来た。



「あ、!待ってたわ!・・・・・・日吉くんも、ありがとう。」

「いえ。それでは、俺は着替えてきます。」

「あの、日吉先輩!ここまで、ありがとうございました!」

「気にするな。」



笑顔の日吉先輩に思わず見惚れ、その後もつい背中を目で追ってしまっていたら、お姉ちゃんがニヤニヤしながら言った。



「ナイス計画!だったでしょ?」

「やっぱり、お姉ちゃんの計画だったんだね・・・・・・。」

「一応、本当にマネージャーの準備もあったのよ?」

「わかってる。それと・・・・・・ありがとう。で、何を手伝えばいい?」



照れくさくて、早く話を変えようとしたところで、他の先輩たちの姿が見えた。



「あっれー?もしかして・・・・・・、ちゃん??」

「はい、そうです。」

「うわー、懐かC〜!俺のこと、覚えてる?」

「もちろんです、芥川先輩。」

「マジマジ?!嬉C〜!!」

「なんや、ジロー。どないしたんや?・・・・・・あれ、ちゃん?久しぶりやなぁ!また見学に来てくれたんか?」

「お久しぶりです、忍足先輩。見学と言えば見学ですけど・・・・・・これからは、それだけじゃなく、マネージャーのお手伝いもさせていただこうと思って来ました。」

「おいおい、。別にそんなことする必要ねぇぜ?俺らに気ぃ遣ってんのか?」

「そうじゃないですよ、向日先輩。マネージャーをすることで、先輩方の練習メニューなどを盗んで帰ろうと思っているだけですので。」

「やるねー、ちゃん。・・・・・・まぁ、そういうことにしておくよ。」

「滝先輩、それ、どういう意味ですか・・・・・・?」

「そのままの意味だ、。あまり無理するんじゃねぇぞ?」

「宍戸先輩に言われたくないです。」

「・・・・・・おい、。お前、余計なこと言ってねぇだろうな?」

「言うわけないでしょ。私は事実を述べてるだけ。」

「あのなぁ・・・・・・。」

ちゃんの言う通りだね。」

「おい、長太郎まで・・・・・・。」

「でも、宍戸さんの言う通りでもあるよ、ちゃん。手伝ってくれるのは嬉しいけど、無理だけはしないようにね?」

「はい!鳳先輩、ありがとうございます。」

「お前ら、何騒いでやがる・・・・・・って、か。」

「あ、跡部先輩!こんにちは。今日は宜しくお願い致します。」

「あぁ。今日、お前にやってもらうのは、これだ。・・・・・・おい、樺地。」

「ウス!・・・・・・どうぞ。」

「ありがとうございます、樺地先輩!」

「それに書いてあるのがお前にやってもらうことだ。あとの細かい指示はに従え。」

「わかりました!」

「それと、だ。」

「はい、何でしょう?」

「ここでマネージャーをする間、俺のことは『部長』と呼べ。いいな?」

「・・・・・・はい!わかりました、跡部部長!」

「よし。・・・・・・それじゃ、お前ら、部活始めるぞ!」



決して、日吉先輩の言うことを疑っていたわけじゃないけれど、こうして皆さんと久しぶりにお話してみると、本当に邪魔者扱いされてないんだってことがわかった。それがたまらなく嬉しくて、思わず口元が緩む。



「どうしたの?久々に日吉くんと話せて嬉しかった?」

「ち、違・・・・・・わないけど!それだけじゃなくって!!」

「わかってる、わかってる。はい、それじゃ、私たちも始めるよ?」

「うん、了解!・・・・・・じゃなくて、わかりました!」



こうして、高等部でのマネージャーのお手伝いを始めた。たしかに、やる内容はそれほど変わらない。でも、やっぱり、皆さんの練習メニューが中等部とは違う分、こっちの時間配分とかが異なってくる。だから、中等部よりも、少し忙しいかな。
これは帰って、榊監督や部長に報告してみよう。中等部での練習の参考になるかもしれない。一応、そういう勉強もしに来てるつもりだからね。
・・・・・・そういえば、榊監督で思い出したけど、跡部先輩に今度の練習試合の挨拶をし忘れてた。また後で、しておかなくちゃ。

しばらくして、お姉ちゃんと手分けして、ドリンクを配ることになった。そうだ、ここで跡部先輩に挨拶をしておこう。



はそっちの分、お願い。」

「あ、待って、お姉ちゃん。私、跡部先輩の方へ渡しに行きたいんだけど・・・・・・。」

「え?日吉くんじゃなくて?」

「・・・・・・。」

「もう。ちょっとした冗談じゃない。それで?景吾に何か用事でもあったの?」

「うん。今度の練習試合のことで、ちょっと挨拶しておこうと思って。」

「あぁ、そのことね。じゃあ、これ、お願い。」

「これが跡部先輩の分なんだね。」

「そう。それじゃ、さっき言った分とそれ、お願いね。」

「わかった!」



そう言って、配り始めようとしたけれど・・・・・・。どうもおかしい。先に渡された分は、跡部先輩から遠い所にいる人たちばかりだ。これでは、効率が悪すぎる。お姉ちゃんが、そんなミスするはずがない。絶対に、これは意図的だ!
とは思いつつも、もうお姉ちゃんは配り始めてしまっている。それを止めるのは、さらに効率が悪い上に、今の私の立場は、お姉ちゃんの指示が絶対。やるしかない。
急いで跡部先輩の元へ行き、ドリンクを渡すと、練習試合の御礼を述べておいた。それはすぐに終わったので、次は急いで他の人たちの所へ向かった。当然、“他の人たち”に含まれていたのは・・・・・・。



「日吉先輩、お待たせしました。」



だからこそ、お姉ちゃんはこっちを先に渡したんだ。でも、私が急に跡部先輩に挨拶したいと言ったから、跡部先輩の分だけを新たに渡したんだろう。



「・・・・・・あぁ、ありがとう。」



まぁ、いいけどさ!日吉先輩と話したかったのは事実だし、また優しく接してもらったし!!



「いえ、これが私の仕事ですから。」

「そうか・・・・・・。あまり無理はするなよ?」

「ありがとうございます!それでは、失礼します。」

「ちょっと待て。」

「え?どうかされましたか?」

「いや、その・・・・・・。さっき、跡部部長と何か話してなかったか?」

「ええ。今度の練習試合を引き受けてくださったことの御礼をお伝えしていたんです。」

「なるほど・・・・・・そうだったのか。」

「またその日もお世話になりますが、宜しくお願いしますね、日吉先輩。」

「あぁ、本気で相手してやる。」

「ふふ・・・・・・。ありがとうございます。それでは。」



この日は問題なく終え、跡部先輩から、これからも時間があれば手伝いに来てほしいと言っていただいた。というわけで・・・・・・、毎週水曜日は高等部に通えるようになりましたっ!!
でも、その前に。









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意味深に終えましたが、別に意味はありません(←)。ちょっと、文章が長くなってしまったので、そろそろ終えておこうかと(苦笑)。
なので、「でも、その前に」何があるかって言うと、普通に練習試合のことです。つまり、次回は練習試合でのお話を書きまーす。

今回は、“書きたい台詞”とか“書きたい場面”とかがあったのではなく、“書きたい設定”だったために、好き勝手に書いていたら、こんなことになったんですよね!(オイ)
日吉くんは同い年夢が多いので、年下ヒロインで書いてみようと思ったんです。そして、どうせ書くなら、結構離れた歳にしてみようじゃないかと!・・・こういうときは、無駄にチャレンジ精神があるんですよね(笑)。

('12/11/14)